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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…
今回は三千歳と片岡直次郎の恋物語「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」に
ついてお話しようと思います。
|天衣粉上野初花(くもにまごううえののはつはな)
河竹黙阿弥作、歌舞伎狂言「天衣粉上野初花」は7幕からなる世話物で、1881年に新富座で初演を迎え
ました。通称「河内山と直侍」と呼ばれるこのお話は前半が河内山宗俊のお話で後半が片岡直次郎と
三千歳のお話になっています。まずは前半の河内山宗俊のお話から始めます。
|河内山宗俊(実際は、河内山宗春)
河内山宗俊は、11代将軍徳川家斉のころ、江戸城で将軍や大名に公式の案内や取次ぎ、給仕をする御表坊主
でした。(物語の中では、江戸城で茶事を司る御数寄屋坊主。)いずれにしても、本来は将軍に会うことが
できない御家人ですが、職務上将軍のそばで仕えています。そのため、秘密事を耳にしたり、告げ口ができる
立場にあり、それを利用し強請、たかりを働いていました。水戸藩を富くじの不正をネタに強請って捕らわれ、
毒を盛られ獄中死したと言われていますが、取調べ中だったため調書が残っていません。そのため、江戸庶民の
想像が掻き立てられ、自由奔放に悪事を働きつつも権力には抗う、弱気を助け強気をくじく義賊的なイメージが
定着しました。磔柱を床の間の装飾に使い、ドクロ柄の着物を着ていたという、いかにもアウトローな人物。
そのエピソードとは…
守川周重作「河内山宗俊 市川團十郎」演劇博物館デジタルより
https://ja.ukiyo-e.org/image/waseda/405-0088
|悪に強きは善にもと
「天衣粉上野初花」は実話をもとにしていると言われています。仕事の立場を利用して、竹刀を質屋に持ち込み
高額を要求していた河内山は、トラブルの匂いを嗅ぎつけます。話を聞くと、大名屋敷に奉公に出した一人娘が
殿様に気に入られ妾にすると軟禁されてしまった。理不尽この上ないけれど相手が大名だからどうすることも
できないと半ば諦め模様。河内山は、手付金に百両、成功報酬に百両で娘をとり戻してこようと提案します。
ちなみに、百両は現在の1500万円くらいです。破格の報酬ですが、娘が戻ってくるならと質屋の主は河内山に
一任することにします。
さて、手付金の百両で身なりを整えた河内山は高僧になりすまして大名屋敷に乗り込み、こんなスキャンダルが
知れたら家の存続にもかかわるとやんわり脅し、娘を取り戻します。そして、口止め料をせしめて帰ろうとした
その玄関先で顔見知りに会い正体がバレてしまいます。普通なら大慌てなはずですが「悪に強きは善にもと」と
開き直って、もし強請で告発すればこのスキャンダルが将軍の耳に入ってお家断絶にもなりかねないけど、
それでもいいならどうぞ、と凄みます。ぐうの音も出ない家臣たちは、やむなく河内山をあくまでも高僧として
見送ります。そんな家臣たちを尻目に、どっちにしても俺の勝ち、「馬鹿め!」を言って引っ込みます。
悪事に長けているやつは何をやらせてもうまく立ち回れるんだぞ、と凄む河内山は悪人だけどカッコイイです。
楊洲周延作「天衣粉上野初花」 東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)より
https://archive.library.metro.tokyo.lg.jp/da/detail?tilcod=0000000003-00052296
|雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
さて後半の片岡直次郎こと、直侍と三千歳お話です。
|直侍
場面変わって、三千歳が静養している、当時入谷田圃と呼ばれる田園地帯にあるお蕎麦屋さん。当時も
お蕎麦屋さんは居酒屋さんのように使われていました。(お蕎麦については次回もっと詳しくお話しますね。)
今度捕まったら死罪、そんな直次郎は江戸を離れる決心をしますが、最後にもう1度三千歳に逢おうと
大口屋の寮を訪ねることにします。12月の雪の舞うなか、身体を温めながらもう少し夜が更けるのを待とうと
入ったお蕎麦屋さんで、三千歳のところへ治療に通っている按摩と遭遇し、一向に良くならない三千歳の病状を
耳にします。店を出て寮へと向う途中、同じく追われる身の暗闇の丑松に出会い、最後に一目三千歳に逢ったら
江戸を離れると話します。もし二人共生き伸びて、次に逢えたならば一緒に酒を酌み交わそうと約束しますが、
別れたあと、丑松は直次郎のことを密告すれば自分の罪が軽くなるのではないかとお上のもとへと走ります。
|もうこの世では逢わねえぞ
やっと寮に着いた直次郎ですが、三千歳に別れを告げると一緒に行くのが叶わないなら、いっそのこと今ここで
殺してほしいとせがまれます。見かねた寮の管理人が一緒に逃がそうとしますが、時すでに遅し。丑松の密告で
追手が寮を囲んでいます。「もうこの世では逢わねえぞ」と言い残し、直次郎は雪の中を走っていきます。
そして、その後ろ姿をいつまでも見つめる三千歳。あちらの世で二人が再会していることを願うばかりです。
|最後に
いかがでしたか。河内山も直次郎も悪人です。でも、河内山のふてぶてしいほどの肝のすわったところ。
直次郎と三千歳、未来のない二人の純粋な恋心。悪人とわかってはいてもとても魅力的です。江戸の人たちに
とってもきっとそうだったんだと思います。こんなドラマチックな物語が実話にもとづいているなんて
本当に驚きです。
次回はこの物語ときってもきれない食のお話、江戸のお蕎麦のお話をしたいと思います。
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