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いまも昔もヒトの考えることって実はあんまり変わらない。
日本舞踊のストーリーを読み解いて、そこに登場するキャラクターたちの現代にも通じる想いを
お伝えしていきたいと思います。
もしかしたら、あなたの悩みを解決するヒントがみつかるかも…
今回は、小唄 「一日逢わねば(三千歳)」についてお話しようと思います。
|花魁 三千歳について
小唄「一日逢わねば」は女性目線で歌われた切ないラブソングです。
まずは、その主人公の三千歳についてお話しようと思います。
|浮世絵の三千歳
来年第100回記念大会を迎える箱根駅伝。見どころのひとつに小田原中継所からゴールの芦ノ湖を目指す、
往路最終5区があります。山の神が激走するドラマチックな場面がテレビ中継でもよく取り上げられる
区間です。この国道1号線の急勾配、箱根小涌園ユネッサンスの向かいに岡田美術館があります。
先日10周年を迎えたばかりのこの美術館に、伊東深水作、木版画 浮世絵「三千歳」があります。
ほつれ髪で鏡の前に座り、振り返っている様子。艶やかにも見える露草色の着物は着崩れ、その艶やかな色とは
対照的に、目の表情は悲しげで落胆の色さえ感じられます。その視線の先に何を見て、何を感じているのか…
想像力が搔き立てられます。
岡田美術館所蔵 伊東深水作 「三千歳」
https://www.okada-museum.com/collection/japanese_painting/japanese_painting9.html
|恋の病
江戸天保期、新吉原 大口屋の花魁、三千歳には毎日のように会いにきてくれる恋人がいました。
でも、その恋人が会いに来なくなると日に日に体調を崩し、やつれていきます。医者に診せても
原因がわからず、治療もできないので、上野入谷にある大口屋の寮(別荘)で静養することになります。
連絡をとる方法もなく、1日中ずっと恋人のこと、そして楽しかった日々のことを思い出して考えてしまう…
小唄「一日逢わねば」にはそんな気持ちが歌われています。
1日が長くて仕方ない。1日逢わないと1000日(約3年)にも感じてしまうほど寂しい。
季節はもう春だというのに身も心も寒く冷えきってしまった。とても切ない歌詞です。
前項でご紹介した伊東深水作、木版画 浮世絵「三千歳」は落胆の表情を浮かべています。物音がして恋人が
会いに来てくれたと思い、入り口を振り返ったけど、誰もいない。ただの風音だったんだなぁと気付いて
がっかりする。スマホが鳴って、好きな人からの連絡かと思ったらLINE広告だった、がっかり……
いまも昔も変わらないですね。
|三千歳の恋人
さて、江戸で人気の花魁 三千歳を夢中にさせた恋人とは一体どんな人だったのでしょうか。
三千歳の最愛の人、片岡直次郎、通称 直侍についてお話しますね。
山梨県立美術館所蔵 名取春仙作「十五世市村羽左衛門 入谷の直侍」
https://jmapps.ne.jp/yamanashimuse/det.html?data_id=1036
|天保六花撰
幕末から明治初期にかけて、盗賊たちを主人公にした物語、白浪物を得意とした講釈師がいました。
この講釈師、二代目松林白圓が「天保六花撰」を創作します。当時は、大雨による洪水や冷害で大凶作となり
天保の飢饉が起こり、一揆や打ちこわしが多発。また、老中 水野忠邦が天保の改革を図り、幕末の足音も
聞こえてくる激動期です。そんな時代にゆすり、たかりで名を馳せた河内山宋俊、片岡直次郎、金子市之亟、
森田屋清蔵、暗闇の丑松、そして悪党じゃないけど、三千歳、この6人が暗躍する物語は大人気を博します。
ちょっと悪い人に惹かれるのは世の習い。そして、その登場人物たちのほとんどが実在の人物をモデルに
しています。三千歳とその恋人の片岡直次郎も実在した人物です。
ちなみに、河内山宗俊(河内山宗春がモデル)、金子市之亟(金市がモデル)も実在します。
|三千歳と直侍の実話
話は戻りますが、三千歳の恋人 直侍は心変わりで三千歳に逢いに行かなったわけではなく
捕まってしまうから逢いに行けなかったのです。そもそも悪事を働くなって話ですけどね。
ただ、この時代は飢饉で生活は苦しく、倹約令等の行き過ぎた取り締まりでささやかな楽しみも
なくなっていました。また、罪人の刑も重く、詐欺まがいで捕まっても死罪(しかもかなり残酷な方法)
だったので、罪を償ってやりなおす、なんてことはできなかったのでしょう。
実際、直侍こと片岡直次郎は捕まり、1832年千住にある小塚原刑場で処刑されました。
そして、三千歳は、直次郎との約束を守り、その身柄を引き取って小塚原回向院にお墓を建立しました。
このとき三千歳は20歳。それから72歳で亡くなるまでの約50年もの月日を一体どんな気持ちで過ごした
のだろうと思うと身につまされます。
三千歳は本名を「なを」と言います。「なを」と「直次郎」。運命の出逢いだったのでしょうか。
|最後に
三千歳と直次郎の切ない恋の物語はいかがでしたか。
この物語は、河竹黙阿弥作「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」にも描かれていて、
その余所事浄瑠璃として流れる劇中挿入歌「忍逢春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)が
小唄「一日逢わねば」の原曲となっています。
次回は、三千歳と片岡直次郎が主人公の歌舞伎「雪暮夜入谷畦道」についてお話しようと思います。
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