日本舞踊ガイド ~ 藤娘

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いまから400超年前、みる者すべてを魅了した出雲阿国の「かぶき踊り」。
それが歌舞伎となり、さらにそこ
から生まれた日本舞踊。
みたことある方にも、みたことない方にも、少しでも面白さが伝わりますように…
ネタバレありのシンプル解説です。

今回は、長唄「藤娘(ふじむすめ)」です。

|成り立ち

江戸時代、東海道大津宿周辺で売られていた大津絵は、現在と違って徒歩で旅をする者たちにとって、
「軽い。安い。珍しい。」と三拍子揃った大人気のお土産物でした。

人間関係や社会風潮に対する風刺の意味も込められていた大津絵は、代表的な画題を集めた「大津絵十種」と
呼ばれるものもでき、護符としての効能も唱えられるようになりました。
大人気の大津絵は、近松門左衛門作の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう」でさらに有名になります。
1826年、江戸で活躍していた二代目關三十郎(せきさんじゅうろう)が故郷の大坂へ帰る際に行なわれた
お名残狂言(おなごりきょうげん:さよなら公演)です。
このお芝居の大切り(おおぎり:フィナーレ)が、
主人公浮世又平(うきよ またべい)が描いた大津絵から5つの題材「藤娘」「座頭」「天神」「船頭」「奴」が
次々と抜け出して踊りだすというものでした。
これが後に5つの独立した舞踊となる「哥へす哥へす余波大津絵
(かえすがえす おなごり おおつえ)」の初演です。

「藤娘」は、この五変化舞踊の最初の曲で、曲の終りかけに、1匹の犬が飛びついて、びっくりした拍子に
可愛いらしく踊っていた娘が、
舞台上で座頭の坊主姿となり、持っていた藤の枝をポンとひと打ちすると
按摩の杖に変わり、そのまま犬と一緒に座頭が
踊るという演出でした。
その後、もともとは民謡だった「潮来出島」が原曲に挿入されます。そして、1937年、六代目尾上菊五郎が
五変化舞踊のひとつだった
「藤娘」を独立させ、大津絵から抜け出るという趣向をやめて、娘を藤の花の精に
した設定に変えます。そして「潮来出島」の代わりに
岡鬼太郎作の「藤音頭」を挿入して、藤の花はお酒を
あげると綺麗に育つという言い伝えからお酒をのんで酔う振りを入れ、演出を一新します。
舞台の中央に
松の大木を置き、大ぶりでたわわな藤の花房を一面に下げて、藤の花の精の小ささを
表現しています。
バレエの「くるみ割り人形」でクララが小さくなる演出と同じ手法が使われています。

江戸東京博物館デジタルアーカイブスより 大津絵「藤娘」
https://www.edohakuarchives.jp/detail-6813.html

|あらすじ

「藤娘」では背景の松は男性を、藤は女性を象徴しています。藤の絡んだ松の大木の前に藤の枝を持った娘姿の
藤の花の精が、
思い通りにならない男心を切々と嘆いて踊ります。そうして遠寺の鐘が夕暮れを告げると、
娘も姿を消す、
というストーリーです。
藤娘は「むすめ」となっていますが、歌詞の冒頭部分に「早や二十年の月花を…」とあり、
大人の女性が
主人公です。浮気心のある
想い人への嫉妬心を表現したり、松の木にからみつく藤の蔦を男女の仲に例えたり、
歌詞はとても艶っぽく書かれています。

というのも、もともと大津絵の画材のひとつだった藤娘こと、藤かつぎ娘は、元禄時代、京の裕福な女性や
遊女たちが、派手に着飾って人目を惹く衣裳を競い合い、寺社などに恋狂いの物見遊山に出掛けるのを風刺した
ものだからです
。大津絵に描かれた藤娘の姿は、能に登場する「狂女」によく似ていて、大津絵職人が
恋狂いを目的にした享楽的な女性たちを「狂女」に見立てて風刺したものが「藤娘」の原型なのです。

途中に挿入された「潮来出島」も一見情景を唄ったようですが、もともと潮来遊郭で生まれたものですし、
「藤音頭」もお酒に酔った色気を感じさせる趣があります。
とはいえ、前半にある「いとしと書いて藤の花…」という歌詞の意味が、ひらがなの「い」という文字を縦に
「とう(10個)」並べて書いて、
真ん中に1本、ひらがなの「し」という文字を書くと藤の花になり、しかも
「愛しい」気持ちに掛けているという言葉遊びには純粋な恋心が表現されているような気がします。

ボストン美術館所蔵 歌川国貞作「藤娘・瓢旦鯰 初代中村福助」
https://collections.mfa.org/objects/464373

|作品

『 哥へす哥へす余波大津絵(かえすがえす おなごり おおつえ)』
作詞:勝井源八・三升屋二三治
作曲:四世杵屋六三郎(長唄)・初代清元斎兵衛(清元)
初演:文政9年(1826年)9月 江戸中村座

|最後に

いかがでしたか。風刺の意味で描かれた大津絵「藤娘」ですが、護符の意味が加わるようになると
良縁のご利益があるとされ、若い女性のお守りとして人気があったそうです。

日本舞踊でもとても人気が高く、常に踊ってみたい演目の上位にランキングされています。

踊り手の個性で趣が変化する日本舞踊。同じ踊り手でも人生経験や年齢によって全く違った踊りになります。
あなたの今を表現してみませんか。

 

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